【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

11 小崎くんと迷子の彼女



⚪︎場所:祭りの会場

祭りの屋台を巡りながら歩く結莉乃と小崎。

・わたがし
・クレープ
・射的
・お化け屋敷

→色々と楽しんだあと、石段に座って休憩する。

結莉乃「はあ、大体ぐるっと一周したね」
小崎「……あのさ、川村さんって意外とお化けとか平気なタイプだったの? お化け屋敷でキャー!とか言って抱きついてくるの期待してたのに、全然驚かないじゃん」
結莉乃「ふふ。逆に小崎くんは、意外と怖がりなんだね。平気な顔してたけどずっと手に汗かいて、脅かされる度にビクビクしてたでしょ」
小崎「げ、バレてる……」

頬を引きつらせる小崎。
→意外とビックリ系に弱い。

小崎「平静を装ったつもりなんだけどなあ、バレてるとかめっちゃ恥ずいじゃん……」
結莉乃「大丈夫大丈夫、お化け屋敷に入るとみんなあんな感じになるのが普通だよ。私は小さい頃から好きだけど、陽介は怖がりだったし」
小崎「……川村さんってもしかして、遊園地とかの絶叫系も楽しめるタイプ?」
結莉乃「うん、ああいうの大好き! 楽しい!」
小崎「え〜、マジかよ……俺苦手……」
結莉乃「そうなんだ? それも意外〜。じゃあ、一緒に遊園地行っても小崎くんはあんまり楽しめなさそうだね」
小崎「う……。いやでも、川村さんの楽しそうな笑顔が見れるんだったら、俺めちゃくちゃ頑張って乗る……! けど……んー……でも垂直に落下する系はちょっと……」

ぶつぶつ呟いている小崎。
その時、唐突に花火が打ち上がり始める。
→ドンッ!という大きな音に反応して露骨に驚く小崎。

小崎「うおわっ!? ビックリしたぁ!!」
結莉乃「ぷっ……、あはは! ほんとにビックリ系に弱いんだ! ふふふっ……!」
小崎「い、今のはずるいって! 不意打ちじゃん!?」
結莉乃「ふふっ……小崎くんって、たまに可愛いとこあるよね。そういうところ好きだよ」

結莉乃は自然と笑顔になり、うっかり『好き』と言葉が漏れる。
→息をのんで目を見開く小崎。
→沈黙が訪れた時、結莉乃は自らの失言に気づき、ハッとして顔を赤くする。

結莉乃「あっ、いや、えっと、違う! 好きっていうのは、別に、その……!」
小崎「……はは。分かってるよ、〝人として〟好きってことでしょ」
結莉乃「う、うん、そう! ……そう……です」

じわじわと恥ずかしくなり、目を逸らした結莉乃。
→色とりどりの花火に照らされる横顔を見ながら、切なげに目を細める小崎。

小崎「……あと三ヶ月ぐらいで終わりだね、試用期間(・・・・)

小崎はぽつりと呟く。
結莉乃もハッとして目を見開く。

小崎「少しぐらい、俺のこと、正式な恋人にしたくなった?」

小崎の問いかけに、結莉乃は目を泳がせる。
→じわじわ恥じらいが生まれる。

結莉乃「……分かんない」
小崎「分かんないかあ」

ぽすり、結莉乃に寄りかかった小崎の頭が肩に乗る。
結莉乃は緊張して身を強ばらせる。

小崎「でも、『分かんない』ってことは、前より進展したってことだよね。だって三ヶ月前は、俺のこと全否定だったじゃん?」
結莉乃「……」
小崎「そうやって考えると、俺も少しは認められたってことかなー。はあ〜、正規雇用(おつきあい)までの道のりは険しいわ〜」

わざとらしく嘆きつつ、愛おしげに目尻を緩める小崎。

小崎「……でも、今、すげー幸せだよ」
「結莉乃をこうして愛せてるから」

小崎に身を寄せられる。
→結莉乃の心臓がばくばくと早鐘を打つ。

結莉乃(ど、どうしよう、近い。首に息がかかる)
(ただでさえ浴衣って暑いのに、顔が熱くて爆発しそう)
(こんなに近かったら、汗かいてるのバレちゃうよ……くさいって思われたらやだな……でも……)
(『離れて』って、言いたくない……)

葛藤する結莉乃。
その時、不意に小崎に電話が。

小崎「ん? 樹からだ」
「ちぇー、何だよ、イチャイチャしてたのに」

ぶつくさ言いつつ小崎は離れ、電話に出る。
→ホッとしたような、残念なような、複雑な気持ちになる結莉乃。

小崎「もしもし〜」

面倒そうに通話を始めた小崎。
しかし、次第に神妙な顔になっていく。

小崎「……え? マジ? まだ?」「いや……俺らは会ってないし、見た記憶もないけど……」
結莉乃「……?」
小崎「……分かった。見かけたら連絡する」

小崎は深刻な表情で電話を終える。

結莉乃「どうかしたの?」

問いかけると、小崎はため息。

小崎「……んん……いや……」
「……双葉が、まだ見つからないって」

言いにくそうに告げられ、結莉乃は驚く。

結莉乃「ええっ!? も、もしかして、みんなで写真撮った時、有沢さんが一人で離れてからずっと!?」
小崎「うん。家にも帰ってないらしくて、今みんなで探してるって」
結莉乃「そんな、大変! 何か事件に巻き込まれてるんじゃ……!」
小崎「いや、でもまあ、アイツ自由人でひねくれてるとこあるし、単純にほっつき歩いてるだけだと思うけど……でも心配だな」

視線を落とす小崎。
結莉乃も眉尻を下げ、きょろきょろと周囲を見回した。
だが、やはり人混みの中に双葉の姿はない。

結莉乃(どうしよう……私のせいかも……)

結莉乃は、双葉が姿を消した本当の原因は自分にあるのではないかと考えていた。
→『双葉が小崎に好意を持っている』という可能性があるせい。
→双葉は、デート中の小崎と結莉乃に鉢合わせたことで、いたたまれなくなって一人で離れたのではないかと考えていた。

結莉乃(有沢さんは、小崎くんのことが好きなのかもしれない)
(あの時、私が小崎くんやお友達と一緒にいたせいで、気まずくなって一人で離れちゃったのかもしれない……)

結莉乃は焦り、小崎の着物の袖を引く。

結莉乃「……ねえ、小崎くん。私のことはいいから、有沢さんのことを探してきてあげて」
小崎「……え?」
結莉乃「女の子が夜に一人で歩くなんて、絶対危ないよ! 有沢さん美人だし、ナンパされて変な男の人に絡まれてるかも。私、ここで待ってるから……」
小崎「いやいや、川村さんをここに一人で置いていけるわけないじゃん! 行くなら一緒に双葉を探そう」

真っ当な反論。
しかし、結莉乃は首を横に振る。

結莉乃「そ、それは、だめなの。私が一緒にいたら、また気まずい思いさせちゃうかも……」
小崎「は? 何それ、どういうこと?」
結莉乃「え、えっと……ほら、有沢さんって人見知りなんでしょ? 私がいたら気を遣わせちゃうかもしれないから……きっと、小崎くん一人に見つけてもらう方が安心するよ。……ね?」

結莉乃はもっともらしい言葉で本音を隠しつつ説得する。
だが、小崎は首を縦に振らない。

小崎「だめ。もちろん双葉のことは心配だけど、川村さんをここに一人で置いていく理由にはならない。何かあったらどうすんだよ」
結莉乃「……それは、そうだけど……」
小崎「確かに俺は、双葉を含め、友達が好きだし大事に思ってる。でも、デート中の恋人を放ったらかしにして置いていくほどバカな人間じゃない」

小崎は断言。
しかし、結莉乃の胸中には言いようのない後ろめたさが膨れ上がっていた。
→拳を握りしめる描写。

結莉乃「……っでも、私たち、お試しで付き合ってるだけだよ。本当の恋人じゃないじゃん……!」

絞り出すような言葉。
小崎は声に詰まる。
→一瞬固まり、切なげな表情で顔を逸らす小崎。

小崎「……うん。そうだね」
結莉乃「……」
小崎「……だけど、それでもやっぱり、川村さんをここに一人で置いていくわけには──」

加賀「げっ! 小崎!」

その時、現れたのは偶然通りかかった加賀だった。
彼は家族と来ていたらしく、姉や母親も近くにいる。

結莉乃「加賀くん……!」

浴衣姿の結莉乃と目が合い、頬を赤らめてどきりとする加賀。
そんな加賀に姉と母が不思議そうな顔をする。

加賀姉「なーに、麟太郎、友達?」
加賀「え、いや……」
加賀姉「ありゃま、美男美女のお友達じゃん。アンタちょっと遊んできなよ、もう帰るだけだしさ」
加賀「は!?」
加賀母「こら、何言ってるの。リンちゃんは今から帰って勉強が──」
加賀姉「まあまあ、たまには麟太郎も息抜きがいるでしょ。少しだけのリフレッシュだよ。ほらほら、あたしらは帰ろ、ママ」

加賀の姉はのらりくらりと両親から加賀を引き離す。
→加賀の母は不服げ。

加賀母「あ、ちょっと! 一人で置いてったら危ないじゃない!」
加賀姉「なーに言ってんの、麟太郎もう高校生だよ。早く子離れしな〜」
加賀母「う……! リンちゃん、気をつけて帰ってくるのよ!」

過保護そうな母を強引に連れていき、振り返った姉は加賀にウインク。
加賀は複雑そうな表情をしていたが、立ち尽くす彼に小崎が声をかけた。

小崎「お久しぶり、リンちゃん」
加賀「誰がリンちゃんだ!!」

からかう小崎。
加賀は敵意むき出しで憤慨。
→小崎と結莉乃が浴衣姿でデートしていることなど見ただけでわかるため、加賀は居心地悪そうにフイっと顔を背ける。

加賀「ふんっ、浴衣なんか着て浮かれちまってバカみてー。髪までセットしてよぉ、美意識高くて羨ましいね」
小崎「はいはい、低レベルな嫌味をどうも。浮かれたバカの顔見たくねえんならさっさと帰れば〜? ママも心配してるみたいだし〜」
加賀「言われなくてもすぐ帰るっての。じゃあなバカップル──」
結莉乃「ま、待って加賀くん! もう少しだけ一緒にいて!」

服の裾を掴み、加賀を引き止める結莉乃。
小崎と加賀は驚く。

小崎「ちょ、川村さん!?」
結莉乃「ねえ、小崎くん、私がここに一人で残るのがダメなんだよね? じゃあ、私一人じゃなかったら大丈夫なんでしょ?」
小崎「……!」
結莉乃「加賀くん、申し訳ないけど、少しだけ私と一緒にいてもらえない?」
「実は、お祭りに来てた有沢さんが行方不明になったみたいで……小崎くんも探しに行った方がいいと思うんだけど、私を一人で置いていけないって言うから……」

状況を簡単に説明。
加賀は事態を把握する。

加賀「ふーん、有沢双葉が行方知れずねえ。そりゃ探しに行った方がいいんじゃねーの、小崎」
小崎「……」
加賀「安心しろよ。お前の大事な結莉乃は、俺が守っといてやるからさ」

薄ら笑いを浮かべ、挑発的に小崎の肩を叩く加賀。
小崎はぴくりと眉をひそめたものの、隣の結莉乃に再び懇願される。

結莉乃「ねえ、お願い。探しにいってあげて、小崎くん」
「有沢さん、一人で不安だと思うから。小崎くんが安心させてあげて」

強い眼差しで訴えられ、小崎は渋々頷く。

小崎「……ずるいね。そんな顔でお願いなんて言われたら、断れるわけないじゃん……」
「困ってる人がいたら放っておけないとこ、ほんと変わらない」
「そういうところが好きなんだけどさ」

小崎は呟き、ぽんと結莉乃の頭を撫でて重い腰を上げた。

小崎「十五分。それ以上探しても見つからなかったら、戻ってくる。絶対ここから動かないで」
結莉乃「……うん。私もできる限り、周り見ておくね」
小崎「わかった。……加賀、お前は絶対変なことすんなよ」
加賀「人の女に手ェ出したりしねーよバーカ。さっさと行けっての」

ため息混じりに答え、加賀は小崎と入れ替わる形で彼のいた場所に座る。
小崎は身をひるがえし、双葉を探して人混みの中に消えていった。

しばらく小崎の姿を見送り、結莉乃は加賀に微笑む。

結莉乃「ごめんね。付き合わせちゃって」
加賀「……別に」

そっけない加賀。
だが、隙を見て浴衣姿の結莉乃をチラチラと盗み見る。
→目が合い、ドキリとして、不自然にそっぽを向く。

加賀「お、お前、あれでよかったのかよ? 小崎一人で有沢を探しに行かせて」
「言っておくけど、有沢は多分小崎のこと狙ってるぞ」

揺さぶりをかけるつもりで言った加賀。
しかし、結莉乃は驚かない。

結莉乃「……やっぱり、そうだよね。悪いことしちゃったな」
加賀「はあ?」
結莉乃「有沢さん、小崎くんのことが好きなんでしょ? だったら、私が小崎くんと一緒にいるところなんて見たくないだろうから……」
「有沢さんがいなくなったこと、私にも責任があるかなって……」

結莉乃の主張に加賀は顔を顰める。
→何言ってんだこいつ、みたいな表情。

加賀「何言ってんだよ。余計な心配だろそんなん」
「お前は小崎のカノジョなんだから、アイツと一緒にいるのは当然の特権だし、責任感じる必要ねえよ」

言いながらちょっと虚しくなる加賀。
結莉乃はいまだ複雑な表情。
するとそこへ、何者かが近づいてくる。

双葉「──そうね。アンタがカノジョなら(・・・・・・)、翠と一緒にいるのは当然の特権だと思うよ。川村さん」
結莉乃「……!」

なんと、二人の前に現れたのは、行方知れずだった双葉。
双葉は腕を組み、リンゴ飴を舐めながら、無表情に結莉乃を見ている。

結莉乃「有沢さん!? よ、よかった、無事だったんだ! いま小崎くんに連絡するから……」
双葉「んーん、そういうのいらない。それよりさ、さっきアンタが翠としてた話、詳しく聞かせてくんない?」
結莉乃「え?」

双葉は一歩結莉乃に近付き、ガリッ、とリンゴ飴を噛む。

双葉「──翠とアンタが『お試しで付き合ってるだけ』で、『本当の恋人じゃない』って話」

冷たい瞳で言い放つ双葉。
結莉乃はひゅっと息をのみ、加賀もまた、目を見開いて言葉を詰まらせるのだった。


第11話/終わり
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