シングルマザーでしたが、オフィスビルで俺様社長と一緒に子供を育てています。
 ニコニコしながら面接してくれたのは、このビルの管理人の田中(たなか)さん。
 優しい笑顔が特徴的な高齢のお爺さんだ。面接の時もいつの間にか、彼女自身の身の上話になってしまったが、それでも親切に話を聞いてくれた。

「私も年をとって一人でやるには、キツくてね。この前なんてぎっくり腰をやったし。
あなたみたいな若い方に手伝ってもらえると非常に助かります。明日からでも頼めますか?」

「はい。よろしくお願い致します」

 咲希は喜んで深々と頭を下げた。良かった。これで奏太(そうた)と2人で生活が出来る。
 改めて頑張ろうと心に決めた。

 次の日。改めてオフィスビルを見ると再確認させられる。まるで別世界みたいだ。
 行き交う人達は、高級そうスーツにブランドの腕時計。いかにも知的な雰囲気の会社員が歩いていた。外を見れば、高級車が走っている。
 それだけではない。もっと驚かされるのは、この巨大なオフィスビルだ。
 本社以外でレストラン、クリニックやカフェやイケメン・バーテンダーが揃っているバーなどで充実している。
 隣はタワーマンションになっており、室内通路もあるので、そのまま出勤が出来るとか。あまりの凄さに、思わずため息が出てしまう。
 自分は見るからに場違いのような格好だし。安物の服を着ている次点で浮いてしまっている。不安になりながらベビーカーで寝ている息子の奏太を見る。
 スヤスヤと眠る奏太。

(ダメダメ。怖じ気ついていたら。これから頑張らないといけないのに)

 気合いを入れ直して管理室に向かった。管理室は、一階の警備員室の隣にある。

「おはようございます。今日からお世話になる岡野と言います。よろしくお願い致します」

 警備員室にも挨拶しながら入って行くと、その部屋に驚かされた。
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