シングルマザーでしたが、オフィスビルで俺様社長と一緒に子供を育てています。
 昨日面接で来た時のシンプルで落ち着いた雰囲気の管理室が、一部赤ちゃん用のスペースが出来ていたからだ。
 ベビーベッドにおもちゃや歩行器など可愛らしいぬいぐるみまである。

(えっ? もしかして奏太のために!?)

 驚いていると田中さんが入ってきた。

「おはよう……岡野さん。早いね? これからよろしくお願いします」

「あ、おはようございます。今日からよろしくお願い致します」

 「あーいいよ、いいよ。気楽な気分で過ごしてくれたら」

 慌てて咲希は頭を下げるが、アハハッと大らかに笑う田中さん。

「それより、この部屋を気に入ってくれたかな? 息子の家の倉庫に孫が赤ちゃんの頃に使っていた物があるのを思い出してね。出してみたんだ。良かったら使ってくれると嬉しい」

「えぇっ!? そんな貴重な物を頂いてもいいんですか? お孫さんさんとの思い出があるのに」

「遠慮しなくてもいいですよ。だからこそ、使って頂けると嬉しい。思い出を受け継いでくれた方が嬉しいですからね」

 田中さんはニコニコしながら、そう言って話してくれた。そういうものなのだろうか?
 申し訳ない気もするけど、あるとありがたい。甘えて使わせてもらうことにした。

「ありがとうございます。大切に使わしてもらいます」

 お礼を言っていると奏太がぐずりだした。どうやら起きたようだ。

「あ、起っきーしちゃったの? 奏太」

 咲希は慌ててベビーカーから奏太を抱き上げると、よしよしとあやす。

「可愛いですねぇ~お名前は奏太君だったかな? 何ヵ月?」

 田中さんがニコニコしながら尋ねてきた。
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