もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
「いえ、このビルにこんなに頻繁に来ること自体、わたしにとっては、すでに特別な出来事ですから」
「そうだったな。今まで、どれだけ誘っても来てくれなかったもんな」と、ちょっと恨みがましい目を向けられる。

「そうでしたっけ」

 わたしの態度がこの前の夜とはまったく違うと気づいたのか、玲伊さんは少し眉を寄せてこっちを見た。
 でも、他の人の手前もあるからか、それ以上何も言わなかった。

 眠れなかった昨日の夜、わたしは玲伊さんに対して、心のなかに防御線を引くことを決心していた。

 もう、これ以上、好きにならないように。
 そうでもしなければ、これからの数カ月間、きっと耐えられない。

 そんなわたしたちの前に、白いカットソーに黒いパンツ姿の紀田さんが微笑みながら、歩み寄ってきた。

「加藤さん。これから、どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いいたします」とわたしも頭を下げた。

「オーナー、お持ちしました」
 岩崎さんからメイク道具を受け取ると、玲伊さんはわたしにさっとメイクを施した。
 

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