もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 祖母と二人だけの職場はとても気楽で、人前で緊張する(くせ)はだいぶおさまった。

 でも、負け犬のようにしっぽを巻いて逃げ出してしまった事実は、わたしの心に小さいけれど深い傷を残した。

 職場の人とうまく付き合えずに会社をやめてしまったという引け目を、今も心のどこかで引きずっている。

 それに逃げ込んだ先の本屋の仕事がバラ色かと言えば、まったくそんなことはない。

 特にうちのような小さな書店の経営環境は年々厳しさを増している。

 ネット書店の台頭、そして電子書籍が予想以上に早く広まり、うちの主力商品である雑誌や漫画の売り上げはガタ落ち。

 店の売上は雀の涙で、主に学校の教科書などの大口注文で、なんとか(しの)いでいる状態だ。

 もちろん黙って手をこまねいているだけでなく、場所柄、ファッション関係の本を多く仕入れて、他の本屋と差別化をはかったり、絵本の読み聞かせをはじめたり、その様子をSNSで発信したり、と小さな抵抗を試みているけれど、時代の趨勢(すうせい)にあらがうことは難しい。

 
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