もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
「やめてください! 誰かと間違えてキスするほど、酔っているんですか!」

「違うよ。優ちゃんがあんまり悲しそうな顔をするから……」

 その言葉が刃のようにわたしの心を貫いた。

「同情でキスなんかしないで!」

「違う……優ちゃん、聞いてくれ」
「何を聞くんですか? だって……だって玲伊さん、彼女がいるのに!」

「彼女? 彼女なんていない」
「嘘! だって、わたし見たんですから。日曜日、外苑前で笹岡さんと玲伊さんがデートしているところ」
「デート? いや、それはね……」

 そのとき、玲伊さんのスマホに着信があった。
 彼は舌打ちしてポケットから出し、画面を見た。
 無視できない電話だったようだ。

「はい、香坂です……えっ? どういうこと?」
 
 緊急な要件らしい慌てた声で応答している。
 話はすぐ終わりそうになかった。

 その隙に、わたしは屋上を出て、置いてあった荷物を手に取ると、玲伊さんの部屋を飛び出した。

 頭ががんがんする。
 スパークリングワインのせいもあったけれど、それだけじゃない。

 玲伊さん、なんでキスなんかしたんだろう。

 彼には、笹岡さんがいるのに。
 わたしより数百倍も聡明で美しい、あの人が。

 また涙が出てきた。

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