もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 「なんだよ、女たらしって……。俺がそういう人間じゃないことは知っているくせに。ったく、人聞きの悪い」と玲伊さん。

 でも、その声には少し笑いを含んでいて、本気で抗議しているふうでもない。

 「さあ、どうだか。火のないところに煙は立たないって言うし。だがよそで何をしようがお前の勝手だが、優紀を泣かせるようなことをしたら、容赦しないからな」

 「もう、お兄ちゃん!」

 わたしは兄の手を振り払うと、玲伊さんに頭を下げた。

 「すみません。兄が失礼なことばかり言って」

 「いや、浩太郎の口が悪いのは昔からだから」
 玲伊さんは涼しい顔で「はい」と言って、さっきわたしが取ろうとしていた本を手渡してくれた。

 「そういえば、ばあちゃんは?」と兄がわたしに尋ねた。

 「ついさっき、眼科に出かけたよ。道で会わなかった?」
 「えー、なんだよ。ばあちゃんに呼ばれたから、わざわざ来てやったのに」
 「たぶん1時間ぐらいしたら戻ってくるよ」

 「屋根裏から衣装ケースを出してほしいとか言ってたんだけど、優紀、聞いてないか?」
 「なんにも聞いてないよ」

 「ふーん、じゃあ『アンジェ』で潰してるから、ばあちゃんが帰ってきたら呼びに来てくれ」

 「うん、わかった」

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