もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
『アンジェ』はこの商店街に古くからある喫茶店。
 店主の白石さんは三代目で、お兄ちゃんや玲伊さんの同級生。

 うちとどっちが先につぶれるか、なんてふざけて言いあっていたのだけれど、レトロ喫茶店ブームで、最近、若いお客さんが増えているそうだ。

 うちも同じくらいレトロなんだから、人が集まってくれればいいんだけど。

「玲伊もいかないか?」
「いや、この後、予約が入ってるから、ちょっと無理。白石によろしく言っておいてくれ」
「あいかわらず忙しい奴だな」
「そういうお前も忙しいだろう。合宿はまだなのか?」
「ああ、来週からだ。戻ったら連絡するよ。久しぶりに飲みに行こうや」
「ああ」

 オリンピック強化合宿のコーチに選ばれた兄は、しばらく東京を離れる予定になっていた。

 兄が出ていってから、玲伊さんはあらためてわたしに言った。

「優ちゃん。注文した本が届いたって藍子さんから連絡もらったんだけど」

 そう言って、にっこり微笑む彼を正面からまともに目にしたとたん、やっぱり心臓が勝手に反応して誤作動を起こしそうになる。

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