もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 慌てて、わたしは顔の前で大きく手を振った。

「いえ、謝るのはわたしの方です。昨日は混乱していて、それに酔って頭も痛くて、せっかく来ていただいたのに追い返すようなことをしてしまって、本当にすみませんでした」
 
「いや、とにかく俺が悪かった。それで、しつこいようだけど、優ちゃんにどうしても話したいことがあるんだ。今晩、どこかで会えないか」

 わたしは彼の目を見て、少しの躊躇も見せずに頷いた。

「わかりました」

 玲伊さんはほっと息をついて、少し表情を緩めた。

「それじゃ、後で時間と場所、メールする」
「はい」
「承知してくれてありがとう、優ちゃん」
「そんな……実はわたしも玲伊さんに話したいことがあるので」

「そうか」とひとつ頷くと、じゃあ、と彼は店に帰っていった。

 今夜で、夢から完全に覚めることになるんだろうな。

 なんだか立ち去りがたくて、わたしは彼が店に入ってゆくまで、その後ろ姿を眺めていた。


***

「ただいま」と書店の引き戸を開けると、祖母が驚いた顔でわたしを見た。
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