もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 わたしは頭を下げた。
「ごめんなさい。そんなつらい思い出をお話していただくなんて」

「いいえ。どうかお気になさらないで。もうずいぶん昔の話なのだから。オーナーに『加藤さんにその話をしていいか』と聞かれたとき、自分から直接話したい、と言ったぐらい。散々世話をかけたオーナーのためだもの。そのくらいのこと、なんでもないわよ」

 笑顔を浮かべてそう言うと、笹岡さんは立ちあがった。

「では、わたしは帰るわね。彼からあなたに話があるそうだし」

「笹岡、世話をかけたな」
 彼女は「どういたしまして」と言うと、店を後にした。


 悲しすぎる話で、まだ頭の中で消化しきれない。

 笹岡さんの、なにかこの世を超越しているような美しさの秘密に触れた気がした。
 
 玲伊さんは穏やかな口調で言った。
「わかってもらえたかな。笹岡とはなんでもないことが」

「はい、それは。あ、でも、玲伊さんがそのアメリカで付き合っていた人とは?」

「もうとっくに別れたよ。他の男と結婚してボストンで暮らしてる。今、俺は完全にフリー」

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