もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 ここは彼の店まで徒歩3分もかからないから、たしかに近い。
 でもまさかこの弱小書店に忙しい玲伊さんが頻繁(ひんぱん)に顔を出してくれるなんて、思ってもみなかった。

 わたしにとって、彼は遠い過去の思い出の中にいる人だった。
 でもこう、しょっちゅう顔を合わせてしまうと、昔の恋心が再燃してしまって、本当に困るのだ。

 でも、でも!
 玲伊さんがはるかかなたの遠い存在で、雲の上の人であることは間違いのない事実。

 というわけで、彼と接するときは、なるべく距離を置くようにしていた。

 下手に親しくなりすぎてしまうと、後々、想いが叶わないことで、身を引き割かれるほどつらくなってしまうのは分かりきっていることだったから。

 もう、会社にいた時のように他人に心を乱されるのは勘弁してほしかった。
 たとえ、それが大好きな玲伊さんであっても。

 この、時代から取り残された書店のように、誰からも顧みられないで、ひとり静かに暮らしていきたい。

 そのときのわたしは、本心から、そう思っていた。
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