もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
「この、新刊のインクの匂いがいいんだよな。なんだか落ち着く」

 わたしが手さげ袋を二枚重ねにして、彼が買ってくれた本を中に入れているあいだ、玲伊さんはレジ前の台に置いてある漫画の雑誌をパラパラめくっていた。

 発売直後の漫画は昔からレジ前が定位置で、子供のころも、祖父の目を盗んで、三人でよく立ち読みしていた。

 雑誌を元の位置に戻した玲伊さんがこっちを見て、言った。

「優ちゃんもたまにはうちの店に顔出せよ。スペシャルオファーでやってあげるから」

「いいです。わたしなんか、どうせ、どんな髪型にしても、たいして変わらないですから」
 
 わたしの返事を聞いた彼は、カウンター越しに人差し指を立てて目の前に差し出した。

 わ、な、なに?

 玲伊さんはその指をわたしの口元に持ってきた。

「『どうせ~』とか『なんか』は口にしたらだめな言葉だよ。百害あって一理なし」
「そんなこと、言われても」

「ここに来るといつも、もったいないって思うんだよ。優ちゃん、髪型やメイクを変えれば、だんぜん可愛くなるのにって」

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