もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 なかなかの美形で、兄の話によると、彼目当てのお客さんも多いらしい。

「ねえ優紀さん、もう大変なんですよ」
 臙脂(えんじ)色の、座面がちょっとへこんだ椅子に座り、グラスの水をぐいっと一口飲むと、岩崎さんはすぐさま話しだした。

 今日は今季最高気温を記録したとか、天気予報で言っていたほど暑い日で、さらにこの時間はとんでもなく暑い。
 わたしも、氷が満たされたグラスの水を一気に半分ほど飲んだ。

「例の、モデルを横取りしたお嬢様、もうトンデモない人で。まあ、ゴリ押しでモデルになる時点ですでにトンデモないんですけど」

 そのお嬢様は「薬膳なんて、美味しくないから食べたくない」「こんな暑いときに運動なんてしたくない」と言って、どちらも1回の撮影だけで済ませて、今は玲伊さんの施術とエステのみしかしていないそうだ。

「そんな、おいしいとこ取りってあります?」と律さん。

 そして今日。

 玲伊さんが地方の美容イベントに出席するため、今日だけ代わりに一階のサロンの主任スタイリストが施術をすると言ったら「そんなの絶対、嫌よ。わたしの髪に触れていいのは、香坂さんだけなんだから!」とごねまくったそうだ。

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