もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 桜庭茂三郎はKALENを出版している改進出版の副社長だが、以前、優紀が勤めていた改進ビルディングスの実質的なトップでもあった。

 孫である乃愛が、あの会社で大きな顔をしていられるのには、そういう事情があった。

 桜庭の祖父は大規模な再開発事業を手掛けたいという野心を持っており、不動産部門のテコ入れのために、香坂ホールディングスとのつながりを求めていた。

 だが、父は、桜庭の祖父がどうも汚職に関わっているらしいとの情報を得ており、まったく相手にしていなかった。

 業を煮やした桜庭茂三郎は、俺のファンだという孫を使うことを考えたらしい。

 うちの孫はあれほど可愛いのだから、好意を示して近づけば、きっと俺が手を出すはずだ、と。
 そして、その既成事実を盾に、俺たちを結婚させようと目論んでいたらしい。

 もし、そんなことを本気で考えていたのだとしたら、目も当てられない「孫バカ」だ。
 浅はかすぎて、一笑に付す値打ちもない。

 心のなかでそんなことを考えているのをおくびにも出さず、俺は言った。
 今、彼女を嫌っていることを知られるのは、ちょっとまずかった。
 
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