もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
サロンに戻り、次の客を迎えるための準備をしながら、俺は優紀と桜庭のことを考えていた。
『桜庭乃愛という名前を聞いたとたん、優紀さん、急に真っ青になって』と岩崎から聞いたとき、ぴんときた。
優紀が会社を辞めた原因かと。
そして同時に、自分でも驚くほど落胆を覚えた。
気持ちが通じ合って以来、俺に心も体もひっくるめて可愛がられることで、優紀の心はすっかり癒されたはずだと、勝手に信じ込んでいたから。
だが、まだ傷はぜんぜん癒えてないことを、今回のことで思い知らされた。
だから、優紀をパーティーに出席させることにした。
彼女自身が、桜庭乃愛と直接対峙しなければ、過去を乗り越えることはできない。
そして、俺は彼女のパートナーとして、圧倒的な勝利を収める手助けをしようと思う。
これからの1カ月間。
これまで築いてきた、香坂玲伊の知識と技術と財力のすべてをつぎ込んで、優紀を誰にも負けないほどの最高の女性に仕立て上げる。
真のシンデレラに偽のシンデレラを凌駕させるために。
俺の耳にはすでに、美しいドレスを身にまとった優紀が登場したときの、会場の感嘆の声が聞こえてくるように思えた。