もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 玲伊さんは、そんな彼女にはかまわず、話を続けた。

「といっても入籍を済ませただけですので、後日、式や披露宴へご招待させていただくと思います。その節はまた、よろしくお願いいたします。では、妻を紹介します。優紀、こちらへ」

 彼の声を合図に、わたしはテーブルの間をゆっくり歩いていった。
 会場は暗く、わたしが歩む通路にだけ、スポットライトが当たっている。

 そして、向かう先に、やわらかな笑みを浮かべて、わたしを見守ってくれている玲伊さん。

 そう。
 他のことには気を取られずに、真っすぐに彼を目指していけばいい。

 ドア前で待っている間はまだ、さまざまな不安が心のなかで渦巻いていた。
 
 慣れないハイヒールで(つまづ)いたらどうしよう、とか、そんなことになったら、また桜庭さんたちに笑われるのではないか、とか……


 でも、今は、自分でも驚くほど落ち着いている。
 一歩一歩、しっかりした足取りで歩めているのが、自分でもわかる。
 
 まあ、なんて、お綺麗な方。
 女優さんかモデルさんかしら。
 さすが、香坂玲伊が選ばれた方ね。

 などと、小声で囁かれていたのも、わたしの耳には入ってきていなかった。

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