もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 「彼女に笑顔を取り戻してほしいと、私は切に願いました。精神科医ではないので専門的なことはわかりません。けれど美容師としての経験上、外見を整えることで、人に笑顔が戻ることはわかっていました」

 会場の人々は、じっと玲伊さんの話に耳を傾けている。
 岩崎さんと笹岡さんが、後方からわたしたちを優しく見守ってくれているのが、とても心強かった。

「そのために、私は彼女に無理難題を押しつけました。けれど彼女は文句ひとつ言わずに私の要求を聞き入れ、とても真剣に取り組んでくれました。そのひたむきさに、私は心惹かれていきました。そして、人のことを第一に考え、人のために涙を流せる優しさにも触れて、ますます魅了されていきました……いや、すみません、これは完全に惚気(のろけ)ですね」

 頭を掻きながら、彼が漏らしたひとことに、会場の空気が一気に和んだ。
 くすくすと笑い声も上がっている。

「えーと、つまり何が言いたいかと言うと、美しさを理由に、彼女を妻に選んだのではない、ということです。彼女の内面に惹かれたからこそ、この人と一生を共に生きてゆきたい、そう強く願ってプロポーズしたのです」

 
 彼は横にいるわたしに、甘やかな視線を向けた。
 微笑みを浮かべて、わたしも彼を見つめた。

 そんなわたしたちの様子に、会場からほーっと熱いため息が漏れた。

 玲伊さんは、悪魔さえ骨抜きにされてしまうほど美しい微笑を浮かべて、会場を見回した。

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