もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 わたしの目にも涙が浮かんで頬を伝ってゆく。
 それに気づいた玲伊さんが、わたしの肩に腕を回し、優しく包んでくれた。

 祖母はパンと手を叩いた。

 「さ、湿っぽいのは今日までだ。あたしは新天地で第二の青春を謳歌するからね」
 その言葉通り、土地を売った資金で熱海にマンションを買い、現在は春は梅見、夏は花火見物と、悠々自適に暮らしている。

 でも高木書店は完全に消えてしまったわけではない。
 
 それから約1年後、玲伊さんは〈リインカネーション〉の1階を改装し、絵本と児童書専門店とサロンの顧客専用である託児施設を兼ねた店舗〈Tall Tree Books〉を開業した。

 そこが今、わたしたちがいる店だ。
 
 店舗の什器(じゅうき)には、高木書店の看板や書棚を修繕して再利用している。
 だから、見た目はとってもおしゃれになったけれど、この店には高木書店の魂のようなものが受け継がれている、とわたしはそう思っている。
 
 「鳴海ちゃん、こちらこそよろしく。じゃあ、そこのエプロンをつけてくれる? 仕事については少しずつ説明していくね。まず、そこに出ているおもちゃを片付けてくれるかな」

 「はい。店長は座っていてくださいね。わからないことがあれば聞きますから」
 「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。体調が悪いときはちゃんと言うからね」

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