もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 慌ただしく通夜、告別式を終え、少し落ち着いてきたある日、親戚が集まった席でこぞって「これを潮に店を売って、老人用のケア付きマンションに移ったほうがいい」と意見しても、祖母はがんとして譲らなかった。

 「そうやって、よってたかって年寄り扱いするんじゃないよ。まだ人様の世話になるほど老いぼれちゃいないんだから」
 根っからの江戸っ子で気丈な祖母は、そう啖呵(たんか)を切った。

 「そんな簡単に潰してたまるか。たとえ一人でもうちで本を買ってくれる客がいる間はこの店を続けたいって、じいさんと頑張ってきたんだ」

 そう訴える祖母に、そこにいた親戚やうちの親はみな、困り果ててしまった。


 「そうは言ってもねえ」
 伯父や叔母、そしてわたしの母は眉をひそめて、祖母をどう説得しようかと思案している。

 たしかに、書店の仕事は力仕事も多い。
 小さな店だとはいえ、祖母一人では荷が重い。
 かといって、とてもじゃないが、人は雇えない。

 「母さん、そんなわがままは言わずに……」
 伯父がそう言うと、祖母はますますへそを曲げてしまった。

 しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのはわたしだった。


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