もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

「ぜひ、うちの店にもいらしてください」と玲伊さんに言われ、まだまだ名残惜しそうな顔をしているお母さんの手を引いて、鳴海ちゃんは帰っていった。

「よく懐いているんだな、あの子」
「2年生のときから、来てくれているから」
「なんか昔の優ちゃんを思い出したよ。それにしても残念だったな。優ちゃんの読み聞かせが聞けなくて」

 わたしが出した麦茶を飲みながら、玲伊さんは言った。

「なあ、今から俺に読んでくれない? 優ちゃんの声、優しくて好きだから」
 
 落ち着け、自分。
 また、いつもの冗談。
 真に受けたらだめだから。

「いえ、恥ずかしいから嫌です」
「そう言わずに。ほら」

 そう言って、机の上に置いてあった絵本を手渡そうとする。

 しかもそれ『しろいうさぎとくろいうさぎ』だし。
 好きな人の前で、このお話はとても読めない。

「嫌ですって」

 ちょっとの間、押し問答していると、奥から祖母の声がした。
 ちょうど買い物から帰ってきたところだった。

「玲伊ちゃん、いるのかい? 一緒にごはん食べていく?」

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