もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 俺は優紀が座っているレジに行き、手に持っていた数冊の赤本を差し出した。


「さすが、玲伊さんですね。難関校ばっかり」
「いや、まだ、どこを受験するか決めてないけどな」
「お兄ちゃんに見習わせたい。漫画ばっか読んでて、ぜんぜん勉強してないから」

 本を袋に入れながら、優紀はにこやかに話し続けた。

「玲伊さんはやっぱり会社を継ぐんですか? お父さん、大きい会社の社長さんなんですよね。お兄ちゃんに聞きました」
「どうかな。兄が三人いるしね」

 すると、優紀はなにかを思い出したのか、ふっと微笑んだ。

「何?」
「わたし、玲伊さんのおうちのこと、ぜんぜん知らなかったから、玲伊さん、美容師さんになるんだろうなとずっと思ってて」

「美容師? なんで?」
「いつもここでわたしの髪、結んでくれていたから。でも、そんな訳ないですよね」

 ああ、そうだった。
 優紀の言葉がきっかけとなって、しばらく忘れていた小学生時代のことが脳裏によみがえってきた。
 
 さらさらした髪の感触や、結び終わったあと、はにかみながらも満足そうに鏡のなかの自分を見つめる表情を。
 
 まるで目の前の霧が晴れていくような瞬間だった。

 そうか。
 自分が本当にやりたいことがわかった。

 俺は美容師になりたいんだ。



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