もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
 「優紀ちゃんの気持ちはありがたいけど、今すぐに結論を出すことはないだろう。家族でよく話し合ったらいい」

 横に座っていた祖母は、わたしの肩をぎゅっと抱いて、言った。

 「ありがとうね、優紀。おじいちゃんの店を大切に思ってくれて」

 その目は少し涙ぐんでいた。
 
 祖母の顔を見たとき、わたしの胸に小さな罪悪感が(きざ)した。
 なぜなら、わたしが店を手伝うと言ったのには、もうひとつの理由があったから。

 もちろん、店を潰したくないという気持ちに嘘はなかった。

 昔から三度の飯より本が好きというのを地で行くタイプの人間で、子供のころ、食事中も本を手放さず、親によく叱られていた。
 そんなわたしには祖父の家が本屋というのは、ものすごく自慢だった。
 
 でも、実のところ、店を継ぎたいという想い以上に、そのころ、人間関係でトラブルを抱えていた会社をやめたいという気持ちの方が強かった。

 当時勤めていたのは、大手出版社の子会社で、ビル管理を中心とした不動産会社。
 
 話し下手で面接が苦手なわたしはなかなか内定が得られず、伝手をたどって、ようやく入社できた会社だった。
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