魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
 身支度を整えたあと、カランがオティリエにお茶をいれてくれる。


「オティリエ様、お食事はお部屋で召し上がりますか?」

「えっと、他に選択肢があるの?」


 昨夜は初日ということもあって定時であがり、私室で夕食をとった。足がパンパンだったため、カランに世話されるがままになっていたが、他の方法があるのだろうか?


「はい。オティリエ様がお望みなら、食堂に降りてお食事をすることも可能ですよ。ただ、たくさん人が来ますからね。お疲れのときにはあまりおすすめできません。他の補佐官の方は、別の職種の人と情報交換をしたいときなんかに利用しているみたいですけど……」

「そう……。それじゃあ、今日のところは部屋で食事をしてもいいかしら?」


 他人の心の声が聞こえてしまうオティリエは人が大勢いる場所は得意ではない。これまでほとんど一人ぼっちで生活をしていた彼女にとって、昨日はそういう意味でも試練の連続だった。


「もちろんです! お茶を飲みながらゆったりとお待ちくださいね」


 カランはそう言って嬉しそうに部屋をあとにする。オティリエはソファに移動すると、ふぅと大きくため息をついた。


(なんだか久しぶりに一人になった気がする)


 たった一日で生活が激変してしまった。
 そういえば、ヴァーリックからは昨夜『努めて一人になる時間を作るように』と助言を受けている。


『オティリエが自分を成長させたいと思っていることはわかっている。だけど、焦っちゃダメだよ。ゆっくり心と身体を慣らしていくんだ』


 彼の言葉を思い出すだけで身体がじわじわと熱くなる。今すぐ変わりたい――もっと強くならなければと思う。


(よし、頑張ろう)


 オティリエはグッと伸びをし、ペチペチと自分の頬を叩いた。


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