魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
***
(とはいうものの)
人間やはり、いきなり強くなれるわけではない。
始業開始一時間前。オティリエは執務室の前で一人、扉とにらめっこをしていた。
(扉の外に騎士がいないから、ヴァーリック様はまだいらっしゃっていない……はず。すでに出勤している補佐官はいるかしら? ここからじゃ心の声が聞こえないからわからないわ)
なにぶん初めての出勤のため、いろんなことがわからない。執務室は開いているのか、どんなふうに入室すればいいのか、入室して一番になにをすればいいのか。――なにより単純に勇気が出ないのだ。
(落ち着いて。勇気を出すのよ、オティリエ。……ヴァーリック様のために強くなるって決めたでしょう?)
こんなところでつまずいていたらなにもできない。オティリエがノックをしようと決心したそのときだった。
「入らないの?」
耳元で爽やかなテノールボイスが響く。
「ヴァーリック様」
慌てて後ろを振り返れば、この部屋の主――ヴァーリックが身をかがめて微笑んでいた。
(とはいうものの)
人間やはり、いきなり強くなれるわけではない。
始業開始一時間前。オティリエは執務室の前で一人、扉とにらめっこをしていた。
(扉の外に騎士がいないから、ヴァーリック様はまだいらっしゃっていない……はず。すでに出勤している補佐官はいるかしら? ここからじゃ心の声が聞こえないからわからないわ)
なにぶん初めての出勤のため、いろんなことがわからない。執務室は開いているのか、どんなふうに入室すればいいのか、入室して一番になにをすればいいのか。――なにより単純に勇気が出ないのだ。
(落ち着いて。勇気を出すのよ、オティリエ。……ヴァーリック様のために強くなるって決めたでしょう?)
こんなところでつまずいていたらなにもできない。オティリエがノックをしようと決心したそのときだった。
「入らないの?」
耳元で爽やかなテノールボイスが響く。
「ヴァーリック様」
慌てて後ろを振り返れば、この部屋の主――ヴァーリックが身をかがめて微笑んでいた。