魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「おはよう、オティリエ」

「おはようございます、ヴァーリック様」

「昨日はよく眠れた? ……見る限り顔色はよさそうだけど」


 ヴァーリックはそう言ってオティリエの顔を覗き込んでくる。


(よかった……! カランに感謝しなくちゃ)


 化粧で誤魔化せていなかったら、ヴァーリックにいらぬ心配をかけていたかもしれない。
 オティリエはコクコクうなずきつつ「ありがとうございます」と返事をする。


「おかげさまで、ぐっすり眠らせていただきました」

「それはよかった。食事はどうだった? オティリエは小さいからたくさん食べなきゃダメだよ」


 ヴァーリックはそう言ってオティリエの頭をそっと撫でる。恥ずかしいやら嬉しいやら。オティリエの頬が紅く染まった。


「それにしても早いね。まだ始業開始の一時間前だよ?」

「し、新人なので。他の人より早く来なきゃって思ったんですけど」

「うん、いい心がけだね。でも、こんなに早く出勤しなくて大丈夫だよ」


 ヴァーリックはそう言って執務室のなかに入る。室内はしんと静まり返っており、他に人がいる気配はない。


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