魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「言ってません。成り行き上同じ部署の人と出かけるとだけ伝えましたけど、深く追求はされませんでした。ですが、カランはヴァーリック様がお相手だなんてまったく、想像もしていませんでしたからどうぞご安心ください。私が言うから絶対です!」


 オティリエはさておき、ヴァーリックに変な噂が立ったら大変だ。必死でそう説明すると、ヴァーリックはキョトンと目を丸くしながら「え……言っても構わなかったのに」と口にする。


「ダメですよ。ヴァーリック様はこれからお妃様を選ぶ大事なタイミングなんです。視察にあわせて新米補佐官に王都を案内するっていう言い訳が立つにせよ、女性と一緒に出かけるということは、あまり人には知られないほうがいいんです」

「それ、エアニーの入れ知恵だろう? 補佐官としてはとても正しい。だけど……僕はデートだって言ったのになぁ」


 ヴァーリックがしょんぼりと肩を落とす。ツキンと胸が痛む気がする――おそらく自分自身の痛みではない。


(ヴァーリック様……)


 オティリエはヴァーリックの補佐官だ。彼のために働くこと、己の能力を磨くことが仕事であり、果たすべき使命である。けれど、彼女にはそれよりも一番に優先すべきものがある。
 オティリエはためらいつつも、ヴァーリックの袖をキュッと握った。


「……だからこそ――ヴァーリック様が楽しみにしてるっておっしゃったから、私はカランと一緒におめかしを頑張ったんですよ」

「うん、知ってる。すごく嬉しかった」


 ヴァーリックはそう言ってオティリエをそっと抱き寄せる。と同時にあぁ――と叫び声にも似たため息が聞こえてきた。


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