魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「今日はできる限りお名前をお呼びしない方向で――」

「なんなりと、って言ってくれたのに?」


 しまった。すでに言質をとられている。これでは断ることは難しい。


「……エアニーさんには内緒にしてくださいね」

「もちろん。二人だけの秘密ね」


 ヴァーリックはそう言って上機嫌に笑った。


 レストランに到着すると、美しい庭園が見渡せる個室へと案内される。街中の隠れ家――百年以上続く老舗店とのことだ。


(ここなら警備も万全にできるしヴァーリック様が人目にとまることもない)


 離れた位置から二人を守る騎士に視線をやりつつ、オティリエはホッと胸をなでおろす。


「ここは王室御用達のレストランでね。幼い頃、父や母と一緒に食事に来たことがあるんだ」

「そうなんですか」


 家族との思い出の店――オティリエにはそんなものは存在しないけれど、ヴァーリックの表情から、言葉から、ここが彼にとってとても大事な場所だということが伝わって来た。

 と、前菜が運ばれてくる。「さあ食べようか」と喜ぶヴァーリックに、オティリエは待ったをかけた。


「あ、あの……まずは私が毒見をしないと」


 城内で王族が口をつけるものにはすべて毒見がされていると聞いている。これまで毒見役が倒れたという話は聞いたことがないが、万が一ということもあり得るのだ。


「大丈夫。きちんと判別できる方法があるんだよ」


 ヴァーリックはそう言って胸元についているブローチをおもむろに外した。


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