魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「オティリエ、心の声は大体どのぐらいの距離まで聞こえるものなの?」

「基本的には普通の声が聞こえる程度の距離と同じだと思います。ですから、通常は半径五メートルが限度です。だけど、この声の主はあまり近くにはいない気がしています」

「それはなぜ?」

「聞こえ方がいつもと少し違うんです。くぐもっている感じがするのに、そのくせすごく大きく響いてきて。きっと心の声が……想いがあまりにも大きすぎて、遠くにいるけど私まで聞こえてくるっていう状況なんだと思います」


 オティリエは説明をしながらキョロキョロと辺りを見回してみる。やはりそれらしき人物は見当たらない。


「だったら、僕と手を繋ぐまでの間に聞こえた内容は? 凶器とか、方法とか、そういったことは言っていなかった?」

「なにも。ただこの広場の人間をみんな殺すとだけ……ごめんなさい、なにもできなくて」

「そんなことないよ。君がいなかったら、僕たちは事件が起こったあとでしか動くことができなかった。お手柄だ。……だけど、オティリエの気持ちはよくわかる。僕もものすごく歯がゆい。早く心の声の主を見つけなければ」


 二人は手を繋いだまま、必死に耳をすませ続ける。しかし、聞こえてくるのは恨み言ばかり。具体的な犯行計画は聞こえてこなかった。


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