魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(そっか。ヴァーリック様が集めているのは補佐官たちだけじゃない。護衛騎士たちもヴァーリック様が能力に惚れ込んで集めた人たちばかりなんだわ)


 オティリエははじめて会った夜にヴァーリックが話していたことを思い出す。


「オティリエの能力も同じだよ。誰にも真似できない唯一無二の才能だ。君がいたから事態に事前に気づくことができた」

「え? だけど私は心の声が聞こえただけで、実際に男性を止められたわけでもありませんし……」

「自分一人でなんでもできる必要はない。人にはそれぞれ、得意なことと苦手なことが存在する。大事なのは、必要なときに自分にできることを頑張ることだ。――オティリエが今日、そうしてくれたみたいにね。だから、自信を持って。焦らないで。ゆっくりと自分の能力と向き合ってほしい。僕は君を必要としているんだよ」

「ヴァーリック様……」


 彼にはオティリエが焦っていることなどお見通しだったのだろう。優しい言葉をかけられて、オティリエは思わず泣きそうになる。なにより、ヴァーリックから必要とされていることが、オティリエには嬉しくてたまらなかった。


「くそっ! くそっ!」


 と、馬たちを動かすことを諦め、馬車から一人の男性が降りてくる。げっそりと痩せ細った中年の男性だ。見れば、彼の手には刃渡りの短い刃物が握られていた。


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