魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(そうか。もしも仕事が見つかったら、あの家を出れるかもしれないんだ……)


 そんなことはこれまで考えてみたこともなかった。そもそも自室から出るのも一日に数回の引きこもり状態で未来に希望などまったく見いだせなかったし、打開策を考えるだけの心の余裕もなかったのだ。


(お姉様がいない場所に行けば、私を蔑む人間は誰もいなくなる……といいのだけど)


 父親や使用人たちがどこまで魅了の影響を受けているのかはわからない。――彼らがあんなふうになったのはもう何年も前のことなのだから。
 とはいえ、元々オティリエは彼らに嫌われていたというだけで、現在は魅了の影響をまったく受けていない可能性だってある。しかし――


【バカねぇ。叶わない夢なんて見ちゃって】


 イアマの声が頭のなかで響く。オティリエはハッと顔を上げた。


「だけどそれってオティリエが誰かに有用だと思われなきゃいけないってことでしょう? 無理よ、そんなの。陰気で受けこたえもろくにできないし、夜会に出たところで立っているのがやっとってところでしょう? 誰もこの子に価値なんて見出さないわ」


 残酷な言葉の刃がオティリエに現実を突きつける。


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