魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「ヴァーリック様、見てください! 男性が!」

「大丈夫だよ。素人がナイフを振り回したところで、訓練を積み重ねた騎士には決して敵わない。フィリップは騎士としても優秀なんだ。なんといっても僕の護衛騎士だからね」


 ヴァーリックの言葉どおり、フィリップは男性からいともたやすくナイフを奪うと、地面にグイッと組み伏せる。「よし」と小さくつぶやき、ヴァーリックはニコリと微笑んだ。


「お手柄だよ、オティリエ。君がいなかったらたくさんの人々が負傷していたと思う。事件を未然に防げてよかった。……犯行を企んでいたあの男性のためにも。本当にありがとう」

「いえ、そんな……。ヴァーリック様のお役に立てたなら嬉しいです」


 こんなふうにお礼を言われることにはまだ慣れない。しかも、定型的な事務処理を終えたときとは言葉の重みが違っている。あまりの照れくささにオティリエはそっと下を向いた。


「あとのことはフィリップたちに任せて大丈夫だ。疲れただろう? 僕たちはそろそろ城に戻ろうか?」


 ヴァーリックがオティリエの肩をポンと叩く。オティリエは少しだけ迷ったあと、首をそっと横に振った。


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