魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「私には聞こえていたんです。あなたの心の声が」

「心の声? ……馬鹿なことを。そんなもの、聞こえるはずがない」

【俺の感情が、苦しみが誰かに聞こえるというなら、そもそもこんなことにはならなかった】


 男性はフッと嘲るように笑う。オティリエは静かに首を横に振った。


「そんなことはありません。あなたは馬車のなかで『許さない。殺してやるって』……ずっとそう叫んでいたでしょう?」


 ピクリ――男性はおずおずとオティリエを見上げた。


「それで俺の企みがわかったっていうのか?」

「……ええ」


 返事を聞くなり、男性はワッと声を上げて泣きはじめた。


「嘘だろう? ちくしょう! 余計なことを……! おまえが! おまえが邪魔をしなければ、俺は望みを果たすことができたのに! 本当に、どうして邪魔なんて……」

「嘘、ですよね?」


 オティリエがささやく。男性は目を丸くして彼女のことを凝視した。


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