魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「私も同じでした。行かなきゃいけない場所があるのにどうしても嫌で。ドアノブに手をかけては引っ込めて、うずくまって。その度に『行かなきゃ!』って何度も何度も自分に言い聞かせてきたんです。だけど、本当は嘘だから……足がすくんで動き出せなくて。怖いって……嫌だって思えば思うほどますます嫌になっていって。そんな気持ちをごまかすために『私は行きたいんだ』って自分の気持ちに嘘をつくようになっていたんです」


 それはほんの少し前までのオティリエの日常。部屋から一歩外に出れば屋敷のみんながオティリエを嘲笑い、冷たい言葉を浴びせかけられる。それでも、生きていくためにはどうしても食事が必要だった。

 嫌だと、行きたくないと何度も思った。しかし、それでは足に力が入らない。

 だからオティリエは自分に嘘をついた。暗く悲しい気持ちから目をそらすために。そうしないと壊れて消えてしまいそうだったから。


「違う! 俺は……俺はそんなこと」

「それじゃあ、あなたは人を殺してなにがしたかったんですか?」

「え? それは……」


 男性がウッと口をつぐむ。


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