魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
【俺はただ思い知らせたかっただけだ。俺をかえりみなかった国に。社会に。俺をこんなふうにしたのはおまえらだって、そう言ってやりたかった。だけど、そんなこと言ったところで……】

「俺はただ思い知らせたかっただけだ。俺をかえりみなかった国に。社会に。俺をこんなふうにしたのはおまえらだって、そう言ってやりたかった――そうなんですね?」


 オティリエが男性の心の声を声に出して言う。男性は大きく目を見開き、呆然とオティリエを見つめた。


「本当に、聞こえるのか?」

「……はい、聞こえます。人を傷つける事件なんて起こさなくても、あなたの気持ちは伝わります。……私が聞きます」


 オティリエが男性の手のひらをギュッと握る。彼は瞳を潤ませたあと、パッと視線をそらした。


「だけど、聞いてもらったところでなにも意味はない。おまえだけが知ったところで、国は、社会は、人々はなにも変わらない……」

「そんなことないよ」


 と、ヴァーリックが口を挟む。彼はオティリエ同様男性の側にかがむと、ニコリと微笑んだ。


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