魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
『関係ない人たちを巻き込んではいけないと頭ではわかっていました。けれど、俺にはこれしか考えられなかった。誰も俺が苦しんでいることに気づいてすらくれない……この世界が大嫌いでした。全員同罪だとすら思っていました』


 すべての事情を語り終えた男性は絞り出すようにそうつぶやいた。オティリエはヴァーリックと顔を見合わせつつ、かける言葉が見つけられない。


『企みを止めてもらえて嬉しかったという気持ちは本当です。誰も傷つかなくてよかったと心からそう思います。だけど……だけど俺は! 仕事もなにもかも失って、これからどうやって生きていけばいいかわからない』


 男性の涙に胸が痛む。オティリエには彼の気持ちが痛いほど理解できた。


(私もお姉様からすべてを奪われてきたから)


 ……いや、相手が元々信頼をしていた人間である目の前の男性のほうが失望感は大きかっただろう。元々持っていたものを失うのと、最初からなにも与えられていないのとでは感じ方が違うはずだ。オティリエは目頭が熱くなった。


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