魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「違います。さっきのはただ……私の能力を他の人に体感してもらうために握っていただけなんです!」


 このままではいたたまれない。恥ずかしさのあまり目をつぶりつつ、オティリエは必死にヴァーリックへと訴える。


「体感? オティリエの能力を?」

「そうです。どんなふうに聞こえるのか気になると言われたので、それで」


 オティリエの返事を聞きながら、ヴァーリックの顔がゆっくりと紅く染まっていく。


「そうか。そうだったのか……」

「はい。ですから、私が彼を好きだとか、誰の手でも握っているというわけではなくてですね!」


 どうか誤解を解いてほしい。オティリエが訴えかけると、ヴァーリックは盛大なため息をつきながら彼女の肩口に顔を埋める。


「え? あの……ヴァーリック様?」

「ごめん……カッコ悪いな、僕」


 そんなこと思っていないと首を横に振ったものの、おそらくヴァーリックには見えていないだろう。それよりなにより、近すぎる距離が、彼と触れ合っていることのほうがオティリエにとっては重要だった。

 先程よりも早くなる鼓動。ヴァーリックにまで聞こえてしまうのではないか? ……そう思ったオティリエだったが、途中から脳内に響いている鼓動の音が一つでないことに気づいてしまう。


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