魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(ヴァーリック様もドキドキしている?)


 どうして? ……そう尋ねたくなるのをグッとこらえ、オティリエは深呼吸をした。


「ごめん……本当にごめん」

「いえ、そんな。ヴァーリック様に謝っていただくようなことではございません。ただの誤解ですし」

「ううん、さっきのは絶対的に僕が悪い。――頭にね、血がのぼったんだ」

「え?」


 オティリエが思わず聞き返す。ヴァーリックはようやくチラリと顔を上げると、バツが悪そうな表情を見せた。


「オティリエが僕以外の男性の手を握っているのを見て、すごくモヤモヤして……嫌な気持ちになった。冷静になれば、君が自分の能力を体験させようとしていただけだって気づけたはずなのに、そんなことはちっとも思いつかなかった。……本当に、ただただ嫌だったんだ」


 はあ、とヴァーリックのついた息が熱い。オティリエはなんと返事をしたらいいかわからず、コクコクと小刻みにうなずく。


「……幻滅した?」

「いえ、まさか! 私がヴァーリック様に幻滅するなんて絶対にありません」


 実家から連れ出してもらい、仕事まで与えてもらったというのに、そんなことを思うはずがない。オティリエが必死に訴えれば「よかった……!」とヴァーリックが顔をクシャクシャにして笑う。


(ああ、なんて顔をして笑うの……!)


 自分の心臓がものすごくうるさい。悲しくもないのに涙まで滲んでくるではないか。こんな感覚、オティリエは知らない。戸惑いと、照れくささの相混じったなにか。けれど、きっとそれだけではない。


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