魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「お疲れ様、オティリエ。道中はどうだった?」

「ヴァーリック様! 楽しかったですよ。エアニーさんやブラッドさんとたくさんお話をさせていただきました」


 馬車で出かけるのはヴァーリックとの街歩き以来。美しい自然や街並みを眺めながら同僚たちと会話をするのは、小旅行のようで新鮮だった。


「羨ましいな。僕もそっちに加わりたかった。一人じゃ退屈で退屈で」


 悲しげなため息をつくヴァーリックに、オティリエはクスクスと笑い声を上げる。


「ご結婚をなされば、一人で馬車に乗る必要はなくなりますけどね」


 と、エアニーがボソリとそうつぶやいた。ヴァーリックはキョトンと目を丸くしたあとふっと笑みを浮かべる。


「たしかにそうだね。この視察が終わったら、母上にも相談しなければならないな……」

(結婚……)


 オティリエは心のなかでつぶやきながら、なんだかモヤモヤしてしまう。

 王族である以上、ヴァーリックが結婚するのは当然のことだ。元々、今年中には妃を選ばなければならないと言っていたし、補佐官である以上そういう話題は避けて通れない。むしろ候補者の検討やそれにかかる支援を積極的にすべき立場だとわかっているのだが。


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