魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(謀反……? 神殿が?)


 ヴァーリックと向かい合って説明をしている神官を見つめつつ、オティリエの心臓がバクバクと鳴る。

 もしもこの話が本当なら大変なことだ。神殿の力が衰えているとはいえ、抱えている信者数は相当なもの。ひとたび暴動が起これば抑えるのは一筋縄ではいかないだろう。しかも、帳簿を誤魔化しているのだとしたら、国が想定している数倍の力を保有している可能性だってある。


(えっと……たしか概況説明のあとは古都を周ってすぐに帰城するって言ってたわよね)


 責任者というのは重要な場面だけ出席してあとは現場の文官たちに任せることが多い。ヴァーリックには他にも公務があるしそれは当然のことだろう。

 けれど、このままでは例年どおり、相手から提示された資料の数字を確認するだけで視察が終わってしまうに違いない。そもそも、神殿が謀反を企てているだなんて誰も想像しないわけで。


(私だって未だに信じられない。神官って神に仕える人たちでしょう? それなのにそんな恐ろしいことを考えるものなの? 今は資料を読みあげているからか、あの神官の心の声は聞こえてこないし)


 けれど、オティリエはたしかに神官の心の声を聞いた。決して聞き間違いではないはずだ。

 仮に自信を持てずとも、不安因子があるならしっかりと調査をし、事前に防ぐべきだとオティリエは思う。被害が出てからでは遅いのだ。


< 208 / 330 >

この作品をシェア

pagetop