魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(だけど、私が文官たちに詳細な調査をお願いしたところで動いてもらえるはずがない)


 視察はあくまで視察。資料のすべてを引っ張り出させ詳しく調べるためのものではない。文官たちは軽い気持ちで来ているはずだし、下っ端補佐官の根拠のない命令には従わないだろう。

 彼らを動かせるとしたら王太子であるヴァーリックぐらいのものだ。彼がひとこと命じれば、文官たちは疑問を抱きながらも従ってくれるに違いない。

 しかし、この場をなんの引っかかりもなしに終わらせてしまったら、あとから覆すことは難しくなる。『問題なさそうだと言われましたよね?』と相手に付け入る隙を与えてしまう。

 つまり、今年は詳細に調査をすると伝えるなら今なのだ。

 しかし、ヴァーリックとオティリエの席は遠く離れており、彼に直接話しかけることも、手を握って心の声を聞かせることもできない。これでは概況説明が終わってしまう。


(ううん……やるしかない。なんとかしてヴァーリック様に状況を伝えなければ)


 遠く離れた場所から心読みの能力を分け与えること、それはあくまで『できるのではないか』という仮定の話であり、必ずできるという保証はない。ヴァーリックですら触れていない状態で自身の能力を与えることはできないのだ。


(それでも)


 繋がれ、繋がれとオティリエは強く念じる。
 自分の能力を体内から取り出して集め、飛ばすような感覚。音は空気を伝っていくのだ。オティリエの能力も同じことができるに違いない。


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