魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
【なんでだ? そんなもの、これまで要求しなかったじゃないか。いや……気まぐれにそういうものを確認したくなることもあるだろうが。しかし……】


 否が応でも高まる緊張感。オティリエはそっと身を乗り出した。


「――それから、神殿の修繕費なんだけどね」

「そちらがなにか」


 神官長の鼓動の音がはやくなる。彼の顔色は今や真っ青で、表情から余裕がまったくなくなっていた。


「あとで修繕箇所を実際に見せてほしい。それから契約書もね」

「承知しました」

【落ち着け。見せるだけ……見せるだけだ。書き写して渡せと言われているわけじゃない。どうせ形だけの確認で終わる。大丈夫だ】


 自分に向かって必死に言い聞かせるような言葉。つまり、見られたくない理由がそこに存在するのだろう。


(本当に閲覧だけで大丈夫なのかしら? すごく怪しいのに……)

【オティリエ、僕たちにはアルドリッヒがいる。彼に見てもらえばあとで書き写すことは十分可能なんだ】

(そうか。それで……!)


 提出までに時間を与えてしまうと、その間に改ざんされる可能性がある。オティリエの兄であるアルドリッヒは一度見たものは決して忘れない。だから、この場で即座に閲覧のみを求めたほうがよいということなのだ。


「あとは……そうだね。今年は宝物庫や神官たちの居住スペースも見学させてもらえるかな?」

「で、殿下がお望みとあらば」


 神官は頭を下げながら心のなかで舌打ちをする。


(よかった。これで詳細に調査をすることの言い訳は立つはず)


 オティリエはホッと胸をなでおろした。


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