魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「二人とも素晴らしい挨拶をありがとう。歓迎するわ。ところで、アインホルン家のご令嬢ということは、二人もなにか特別な能力を持って生まれてきたのかしら?」

「それはもう! イアマは実は……魅了の能力の持ち主なのですよ」


 王妃の側で父親が声をひそめる。イアマの能力は一族の秘密だ。政治や戦争で切り札となりうる強く稀有な能力。貴族たちに知れ渡って警戒されては意味がない。イアマからすれば魅了したい相手に会ってしまえばこちらのもので、警戒など大した意味はなさないのだが。


「まあ……! そんな秘密を私に打ち明けて良かったの?」

「もちろんですわ、妃殿下。わたくしの能力はすべて余すことなく国のために役立てたいと思っておりますの。わたくしが王室に入れば、いろんなことがスムーズに成し遂げられるはずですわ」


 イアマが自信満々に微笑む。周囲がにわかにざわついた。


【……なるほどねぇ。こんなところで『僕の妃になりたい』って宣言するのか。なんとも大胆な女性だなぁ】


 そのとき、どこからともなく心の声が聞こえてきた。他にも心の声は飛び交っているはずなのに、妙に大きく、はっきりと聞こえてくる。まるで直接話しかけられているかのようだ――そう思いながら視線をさまよわせると、一人の男性がオティリエを真っ直ぐに見つめていることに気づいた。

 美しい金色の髪、理知的な眉に整った鼻梁、スラリとした長身の持ち主で、まばゆいほどの存在感を放っている。なによりオティリエの目を惹いたのが左右で色の違う瞳だった。左はアインホルン家と同じ紫色、右は鮮やかな緑色だ。


(綺麗)


 まるで宝石のようだと思った。こんなに見つめては失礼だと頭ではわかっていても、吸い寄せられるような心地がする。


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