魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「そうなんですか?」

「ええ。だって、女の子って可愛いじゃない? こんなふうに他愛もないおしゃべりをしたり、可愛いドレスをプレゼントしたり、街に一緒に出かけたら楽しそうだなぁって。そういう生活を送るのが夢だったの。そりゃあ、妃としては後継ぎである男児を生むことが一番の役目だし、今でも十分恵まれているとは思うのよ? だけど、ヴァーリックにフリルのドレスを着せるわけにはいかなかったし……本人もものすごく拒否していたしね」

「それは……そうでしょうね」


 幼い日のヴァーリックと王妃とのやりとりを想像して、オティリエはついつい笑いそうになってしまう。王妃はそんなオティリエを見つめつつ、嬉しそうにほほえんだ。


「それにね、あの子ったら十歳そこそこの幼いうちから早々と公務を担いはじめてしまったのよ。口を開けばいつも『仕事、仕事』って……夫じゃあるまいし。母親としてはもう少し日常の楽しかったことや嬉しかったことを聞きたいと思うじゃない? 友人とか、好きな食べ物とか、服装の好みとか、話題なんていくらでもあるのに。おとなになるのが早すぎたんじゃないかって寂しく思ったりするの」

「妃殿下……」


 オティリエには母親がいないし子供を生んだ経験もない。だから、ほんとうの意味で王妃の気持ちはわかっていないだろう。けれど、彼女の言いたいことはなんとなくわかる。


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