魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「あ、あの……私、今ちょっと急いでいて。執務室に行こうと」

「ヴァーリック様なら私室にいらっしゃいますよ。ご案内しますので、どうぞこちらに」

「……!」


 どうやら行き先が事前にバレていたらしい。……というより、彼はオティリエを案内するためにここにいたのだろう。オティリエは戸惑いつつも騎士の後ろについていった。

 歩くこと数分。はじめて足を踏み入れる王族たちの居住スペース。執務エリアよりも重々しい雰囲気にオティリエはゴクリと唾をのんだ。


「こちらのお部屋です」


 扉の前に到着し、騎士からそう教えてもらう。けれど、ノックをするだけの勇気が出ない。
 ここは執務室ではない、ヴァーリックのプライベート空間だ。本来なら、補佐官である自分が踏み込んでいい場所ではないだろう。


(だけど……)


 早くヴァーリックに会わなければ。オティリエは扉をそっと叩く。


「はい」


 ヴァーリックの声がかえってくる。オティリエは大きく深呼吸をした。


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