魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(こんなにたくさんの令嬢が王太子妃になりたいと思っているのね)


 城内で働く侍女や女官たちは仕事で成功したいという欲はあれども、王太子妃になりたいと考えてはいない。もちろん、今日お茶会に招かれている令嬢よりも身分が低いからというのもあるだろうが、ここにいる令嬢たちの熱意はオティリエが想像していたよりずっと凄まじかった。


(みんなすごいな……あんなに自分に自信があって)


 自分よりも王太子妃にふさわしい女性はいない――容姿も教養も身分的にも――心の声など聞こえずとも、彼女たちのプライドが手に取るようにわかる。羨ましい……オティリエは自分を眺めながらちょっぴり悲しくなってしまう。

 ヴァーリックのおかげで以前に比べれば随分自分のことを好きになった。

 けれど、イアマや父親、使用人たちに虐げられてきた過去は消えないし、彼らの蔑むような視線や恐怖は今でも時々夢に見る。自分はダメな人間なんだ――そう考えてしまうことも少なくない。そのたびに仕事を必死で頑張って、自分を必死に保っている。

 だけど時々……本当に時々だが、仕事がなかったらオティリエにはなにも残らないのではないかと、そんなことを思ったりもするのだ。そんな自分はヴァーリックにはふさわしくない、と。


「こんにちは」

「「「……!」」」


 とそのとき、ヴァーリックがお茶会の会場にやってきた。その途端、令嬢たちの表情が明らかに変わる。完全にハンターの顔つきになった。


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