魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(さてと)


 もうじき片付けがはじまるだろう。きっと人手が必要なはずだ。オティリエも招待客の一人ではあるが、終わってしまえば関係ない。手伝いを申し出よう――そう思ったそのときだった。


「オティリエ」

「あっ……ヴァーリック様?」


 背後からヴァーリックに声をかけられ、オティリエは静かに振り返る。


「どうなさいましたか?」

「……うん。オティリエと二人でお茶を飲み直したいなと思って。誘いに来たんだ」


 そっと差し出される手のひら。ざわりと会場が色めき立つ。


【オティリエ様がヴァーリック殿下に誘われたわ! 次の王太子妃はオティリエ様で決まりかしら】

【帰らなければいけないってわかっているのに気になる……覗き見したいわ】

【殿下がお誘いになったのがオティリエ様でよかったわ! 先ほどのご令嬢たちが選ばれたらどうしようってヒヤヒヤしていたもの】


 高位令嬢たちはすでに馬車に乗り込んでいるため、ここにはオティリエに好意的な女性しかいない。とはいえ、ヴァーリックがこんなかたちで声をかけてきたことに驚いてしまう。


(どうしよう? タイミングがタイミングだから誤解されてしまっているわ……)


 オティリエは彼の補佐官だけれど、今は妃選びのお茶会の場だ。妃候補として有力だから呼び止められたと勘違いされても仕方がない。オティリエはおずおずとヴァーリックのことを見上げた。


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