魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「わかりました。もとより決めるのはオティリエさん自身です。けれど、その想いは早く……少しでも早くヴァーリック様に伝えてあげてください。今頃きっと、どうしてあなたが悩んでいるのか……こたえを出せずにいるのかを知りたがっていると思います。あの方はなんでもできるし強く見えますが、案外脆い部分がありますから」

「ヴァーリック様が?」


 そんなふうにはとても見えない。オティリエが驚くと、エアニーは「ええ」と小さくうなずく。


「本当ならひとこと『妃になれ』とお命じになればよかったのに……ヴァーリック様はきっと、あなたの心がほしかったんだと思います。オティリエさん自身に、自分を選んでほしかったんだと思います」


 エアニーの言葉に胸が軋む。まるでヴァーリックが隠している心の声を聞いているかのよう。けれど、本当のところは本人に聞かなければわからない。


(ヴァーリック様と話をしなくちゃ)


 どんな反応がかえってくるか不安でたまらない。けれど、エアニーの言うとおりオティリエの気持ちを伝えるべきなのだろう。


「最後にもう一つだけよろしいですか?」

「はい、なんでしょう?」


 オティリエが尋ねかえす。エアニーは優しくほほえむと、オティリエの手をそっと握った。


「オティリエさん、ぼくはヴァーリック様だけでなく、あなたにも幸せになってほしいと願っています」

「エアニーさん……」


 人はどうして他人の幸せを望むのか――オティリエは目を細め「ありがとうございます」と返事をするのだった。
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