魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
 そんな一族の末娘であるオティリエがどうしてこんな酷い扱いを受けているのか――それは彼女の姉イアマに理由がある。


 オティリエは今から十六年前に誕生した。当時イアマはまだ二歳。それまで蝶よ花よと可愛がられてきた彼女は、両親や使用人たちの関心がオティリエに注がれるのが我慢できなかった。そして、彼らの注目を一身に集めるために魅了の能力を開花させたのだ。


『ああ、イアマ』
『なんて可愛いのでしょう! この子のためならなんでもできる』
『それに比べてオティリエは平凡だもの。かまっている暇はないわ』


 かくして、オティリエを可愛がってくれる人は一人もいなくなってしまった。

 おまけに、イアマの魅了の威力は年々強くなっていく。はじめは最低限の世話をしてくれていた使用人たちも、やがてそれすらしなくなり、今では食事すら満足にとれなくなっている、というわけだ。


「あの、私の食事を取りに来たんだけど……」

「え? なんですか?」
「声が小さすぎて聞こえないんですが」
「もっとはっきりと喋ってくださいません?」


 オティリエが口を開くやいなや、侍女たちが被せるように返事をする。次いで脳へダイレクトに彼女たちの感情が流れ込んできた。


【本当に陰気ね】
【あんな情けない声しか出せないなんてみっともない。もっとイアマ様を見習ってほしいわ】
【心の声が聞こえるなんて気味が悪いわ……と、これも聞こえているのかしら?】
【こんな子にイアマ様と同じ食事を渡すなんて……】


 耳をふさぎたくなるような使用人たちの心の声――しかし、ふさいだところで意味をなさないのがこの能力のやっかいなところだ。聞きたくなくても聞こえてくる。防ぎようがない。他人といるときにはずっと悪口を聞かされるはめになってしまう。だから、オティリエは数日に一度しか食事を取りに来ない……来れないのだ。


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