魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「い……いえ、妹がなにか失礼を働くのではないかと心配で」

【っていうか! わたくしまだヴァーリック様と話ができていないんだもの。こんなタイミングで彼を連れて行かれちゃ困るのよ。オティリエ、あなたからも早く断りなさい! 早く!】


 焦ったようなイアマの声が聞こえてくる。オティリエは半ばパニックに陥りつつ「あの……」と声を上げた。


「姉が申し上げたとおりです。私は礼儀作法に疎く、殿下とお食事なんてとてもとても……」

「大丈夫。僕はそんなことは気にしないよ。それに、僕はオティリエ嬢ともう少しゆっくり話がしてみたいんだ。断られたら悲しいな」

「え……?」


 悲しげな――それでいてどこか楽しげな表情。どうやらオティリエの反応をうかがっているらしい。そのくせなぜか彼の心の声は聞こえてこないから厄介だ。


(どうしよう? どうするのが正解なの?)


 イアマとヴァーリック、優先すべきは当然王太子であるヴァーリックだ。けれど、そんなことをすれば、帰宅後にどんな仕打ちを受けるかわかったものではない。
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