魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(どうしましょう? また泣き始めてしまったわ)


 オティリエは戸惑いながらヴァーリックを見る。と、アルドリッヒがそっと身を乗り出した。


「オティリエ、ごめん。お父様はこんな状態だし、自分からは話しづらい点もあるだろうから、俺から説明してもいい?」

「お兄様……はい、よろしくお願いいたします」

「まずはじめに伝えたいのは、お父様は俺や使用人たちと同じで、ずっとイアマの魅了にかかっていたってこと。それこそ君が生まれたときからイアマに毒されていたんだ」

「……はい」


 アインホルン邸から連れ出されたとき、オティリエは父親の心を読んだ。ヴァーリックの能力により魅了を一時的に解かれた彼が、己の過去を思い出しているのを。
 あのとき見た映像……生まれたばかりのオティリエから父親の愛情を奪ったイアマの姿は忘れたくても忘れられない。父親がイアマに魅了をされ、言うことを聞かされているのは明白だった。

 だからといって、彼からされたひどい仕打ちは消えないし、決していい感情は抱けないけれど。


「そんなお父様がどうしていきなり正気を取り戻したのか……本当はね、いきなりなんかじゃないんだよ。ヴァーリック殿下が定期的にお父様と面会をしてくださっていたんだ」

「え?」


 その瞬間、オティリエは大きく目を見開く。急いでヴァーリックのことを見ると、彼はとても穏やかに瞳を細めた。


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